アヴェリア大陸西部、地図の空白地帯に広がる人類未踏の原生林。それが「始原の森」です。人々の生活圏にあるウィスパーウッドとは一線を画す、真の意味での「聖域」であり、有史以前から変わらぬ姿を留めているとされるこの場所を紐解きます。
1. 概要:人を拒絶する「静寂の重圧」
始原の森は、大陸で最も古く、最も巨大な樹木が密集する地帯です。その境界線を一歩越えれば、空気の重さが一変します。
- 五感を麻痺させる生命力: 湿度は飽和状態に達し、濃厚な植物の芳香と腐葉土の匂いが立ち込め、訪れる者に目眩(めまい)を覚えさせるほどです。
- 異常な静寂: 通常の森のような鳥のさえずりや虫の音はほとんど聞こえません。聞こえるのは、風に揺れる巨木の軋みと、低く唸るような律動の音のみ。この「無音の圧力」が侵入者の精神を削り取ります。
2. 異形の植生:空を覆う「緑の天井」
ここに生える木々は、一本一本が「神殿の柱」に例えられるほどの巨木です。

- 巨樹の壁: 幹の直径が数十メートルに及ぶものも珍しくなく、地表を這う根は城壁のように隆起し、行く手を阻みます。
- 薄明の世界: 幾重にも重なった枝葉が太陽光をほぼ完全に遮断するため、昼間でも地上は夕暮れ時のような薄暗い黄緑色の光に包まれています。
- 王冠羊歯(クラウン・フェーン): 古代文献にのみ記されていた巨大シダ植物。周囲のエネルギーを感知して葉を動かす独自の進化を遂げています。
3. 剥き出しの「律動」:幻想的な罠
この森には、世界の根源エネルギーである「律動」が、加工・制御されていない「純粋かつ荒々しい状態」で渦巻いています。

- 月の涙茸(ムーン・ティア・マッシュルーム): 強い律動の影響で変質した発光キノコ。常に青白い燐光を放ち、暗い森を照らす天然のランプとなります。
- 死の胞子: 特定エリアに漂う虹色の胞子。その正体は高密度の律動の塊であり、防護なしに吸い込めば精神を焼き切られる「美しき罠」です。
4. 伝説の象徴:聖域の大樹(せいいきのたいじゅ)
始原の森の最深部、すべての律動が収束し、また湧き出す地点に鎮座すると伝えられるのが「聖域の大樹」です。

聖域の大樹の伝承
- 天を衝く塔: 雲を突き抜けるほどの高さを誇り、この木自体が巨大な律動機関として森全体の生態系を制御していると言われています。
- 星の記憶を刻む樹皮: 樹皮には世界の始まりからの記憶が、複雑な術式紋様となって刻まれているという伝説があります。
- 到達不能の領域: 周囲には極めて高濃度の律動障壁が存在し、資格なき者は近づくことすら叶わず、森の養分へと還元されると伝えられています。
5. 古代文明の痕跡と、守護する魔獣たち
森の深部には、かつて律動と共生していた「古代エルフ」の遺跡が今も眠っています。

- 苔むした遺構: 自然の律動と調和するための祭壇や石柱が点在しており、彼らの高度な文明を物語っています。
- 樹守の巨獣(トレント・ガーディアン): 森の境界を守る、岩と樹皮の要塞。侵入者を排除するための「森の免疫システム」です。
- 苔擬き(モス・ミミック): 遺跡や岩塊に擬態した捕食者。視覚に頼る狩人を音もなく仕留めます。
- 森猩々(フォレスト・エイプ): 植物と動物が融合したような異形の類人猿。圧倒的な破壊衝動と再生能力を併せ持ちます。
結び:冒険者への警告
始原の森は、知識を求める学者や一攫千金を狙う冒険者にとって、究極の挑戦場所です。 しかし、そこは「人が入るために作られた場所」ではありません。森自体が意志を持ち、古き秩序を守り続けている。始原の森に挑むということは、世界の理そのものに触れることを意味するのです。

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